LOGIN怒涛の如く、色々な事が流れて行く。私と遼大はEMSOに向かいながらしばらくの間、黙っていた。えーと、最初は何だったんだっけ……やっと愛沢くるみの嘘が暴かれて、その証拠も着々と集まり出して。カルテの改ざんの事実も、その証拠が揃って……。新見悟が暴挙に出て、遼大が怪我をして……。そうだ……遼大の腕の怪我……。私はそれを思い出し、遼大を見上げる。「遼大、腕、大丈夫?」そう聞くと遼大が微笑む。「ん? 腕?」そう聞き返した遼大は次の瞬間、思い出したようで笑い出す。「あぁ、大丈夫だよ。燈に言われるまで忘れてたくらいだ」切れ味の良いメスで切られた事で、雑菌なども無く、綺麗に縫合が出来たから、怪我の治りも早いと思うけれど。それでも縫う程の怪我なのだ、痛くない筈が無い。「痛みがあるでしょう?」そう聞くと遼大は怪我をしていない方の手で私の肩を抱き、言う。「大丈夫だよ、今はそれどころじゃないからね」すべてを精神力で乗り越えて行く、そんな遼大は嫌いじゃないけれど、心配だ。遼大に寄りかかりながら私は遼大の胸板に手を当て、言う。「あなたのそういう強いところは好きだけど、無理はしないでね」そう言うと遼大が言う。「燈」呼ばれて遼大を見上げる。「じゃあ、特効薬をくれ」そう言って遼大が微笑む。「特効薬?」そう聞くと遼大が微笑んだまま言う。「あぁ、特別甘いやつを頼む」そう言われて私は笑い、そして少し背を伸ばして言う。「いいわ」私は遼大の首に手を回し、遼大の唇に自分の唇を重ねる。◇◇◇EMSOに到着する。「高嶺! 佐伯顧問!」出迎えてくれた賀神さんが声を掛けて来る。「大丈夫だったか? 爆破がどうのって話を聞いたんだが」そう聞かれて私と遼大は顔を見合わせて笑う。「燈が千堂家の玄関に仕掛けられていたトラップを見抜いてくれたお陰で誰も怪我せずに済んだよ」遼大が少し誇らしげにそう言う。「千堂家の玄関に仕掛けられていたトラップ?」賀神さんがそう聞く。「あぁ、そうなんだ」そう言いながら遼大が歩き出す。「中で話そう。会議室の準備は出来てるな?」そう聞かれた賀神さんが頷く。「あぁ、準備は万全だ」会議室に入り、後続の車を待つ間、私と遼大、そして賀神さんで話を進める。千堂家であった事を話すと賀神さんは苦笑する。「玄関に爆発物か……」そう言
「ここにはもう何も無さそうね」私がそう言うと、遼大が少し考える。「千堂弘を知る為に、ここは捜索を継続させるよ」そう言う遼大に頷き、私と遼大はその場を後にする。愛沢くるみのイルミのバッグの中に入っていた紙を遼大が取り出し、歩きながら広げてみる。数枚あった紙の一枚目は誰かのバイタルなどが書かれている。「これ、愛沢くるみの?」私が歩きながらそれを見て、遼大に聞く。遼大もそれを見ながら少し考えて言う。「あぁ、おそらくな」紙をめくる。二枚目にはベンゾジアゼピン系薬品投与後、と書かれている。「愛欲の女王を投与……?」そこでハッとする。「もしかして愛沢くるみは愛欲の女王を直接、体内に流し込まれているの!?」玄関ホールまで来て、振り返る。「あのラボにあったものを調べてくれ」部下の人にそう指示を出し、遼大は堤さんを振り返る。「堤さん、後は、任せても良いですか?」遼大がそう聞くと堤さんは微笑み、そして苦笑する。「えぇ、大丈夫です。後はこちらで色々調べておきます。結果は逐一、報告を」千堂家を出る。あの不気味な彫像がこちらを空虚な目で見ている。◇◇◇車で走り出しながら、私と遼大は愛沢くるみのイルミのバッグの中身を確認していた。愛欲の女王を直接、体内に投与されている可能性……。そう考えると本当にあの千堂弘という人間は狂っているとしか思えない。「愛沢くるみの体内に愛欲の女王が直接、投与された事は確定ね……」私が残された紙を見ながらそう言うと遼大も頷く。「あぁ、そうだろうな」そう言いながら残されたその紙を一緒に見る。「幻覚があると書かれているな」その書き込みを見て、私も頷く。「愛欲の女王に幻覚を見せる作用があるって事よね?」そう聞くと遼大が首を捻る。「そもそも愛欲の女王は香水として作られているからな。ベンゾジアゼピン系物質をそのまま投与する事までは千堂彰でさえやらなかった事だ」私たちは千堂理を診ている。彼もまたベンゾジアゼピン系物質に三年間、侵され続けた結果、ベンゾマスクになっている。それも香水のように上から噴霧されただけで、直接投与された訳じゃない。「どれぐらいの濃度で投与されているか、投与されたその薬品がどれだけ人体に影響があるのか。それが未承認の薬品である以上、検証はされていないからな」遼大にそう言われて私も頷く。「安全
車から出ると、最前線で処理をしていた人のうちの一人が駆け寄って来る。「どの程度の破損だ?」遼大がマスク越しにそう聞くとその人が言う。「爆発の規模は小規模、せいぜい扉を開けた人物が吹っ飛ばされる程度でした」だとしても。あの場で私が止めていなかったら、堤さんが吹っ飛ばされていたという事になる。「状況は?」そう聞く遼大にその人が言う。「ご推察の通り、少量の毒が飛散した模様ですが、高圧放水の処理、及び飛散防止の処理をしてありますので、毒物は無効化した筈ですが、念の為、マスクは外さずにお願い致します」遼大と共に歩き出し、玄関へ向かう。玄関は扉の部分が吹き飛んでいる。「外側部分にだけダメージが出るよう、計算されていたようです」遼大の部下の人がそう言う。「狡猾だな」遼大がマスク越しにそう言う。そして私に手を差し伸べて言う。「気を付けて」そう言われて私は遼大と共に中に入る。玄関ホールには不気味な彫像が立っている。人体を模しているけれど、胸からお腹の部分が切り開かれて内臓が外へ露出している、そんな彫像だった。「素敵なご趣味だ」遼大がそう言い笑う。そして驚いた事に、その彫像にはメモが貼られている。【ようこそ 千堂家へ】遼大はそれを見て鼻で笑い、そして自身の部下たちに言う。「警戒を怠るな! トラップがまだあるかもしれない」◇◇◇屋敷内をくまなく捜索した結果、玄関でのあのトラップ以外は見つからなかった。薬物の反応も落ち着いたらしく、私と遼大はそれでもマスクを付けたまま屋敷内を歩いた。結局のところ、屋敷内には誰も居なかった。残されていたのは屋敷の一番奥にあったラボだ。灰色の部屋、真ん中に置かれていたベッドの脇には何かの薬品と器具。そして残されたメモ。~おめでとう。だが失礼する~手書きで書かれたその文字を見て、私も遼大も溜息をつく。「総帥、これを!」そう言って一緒に屋敷内を捜索していた遼大の部下の人が何かを持って来た。それは小さな赤いバッグ。愛沢くるみが大好きなイルミのバッグだった。中を確認する。中には小さな財布とハンカチ、そして数枚の紙。「スマホは入っていないな」遼大がそう言って少し笑う。そうだ、私たちは愛沢くるみのスマホにバックドアを仕掛けてある。「でもレセプタータグが一緒じゃ無いと機能しないんじゃないの?」私が
遼大が皆を下がらせる。「慎重に調べてくれ」そう言って遼大の部下の人が二人、玄関先へ行き、何か機材を出して調べ出した。「他に入れそうな場所が無いか、調べろ」遼大はその場にいた部下の人にそう指示を出す。「あの人たちは大丈夫なの?」私がそう聞くと遼大が笑う。「大丈夫だ、専門家だから」そう言われて私は振り返って玄関先の二人を見る。「専門家?」聞くと遼大は微笑み、言う。「あぁ」玄関先に居た遼大の部下の人が走って来て、遼大に言う。「やはり、何か仕掛けられていますね、爆発物の可能性が高いですが、それ以外にも、もしかしたら薬物の飛散などによるバイオハザードの可能性もあります」そう言われて私たちは顔を見合わせる。「燈の勘が当たったって事だな」そう言われてゾクッとする。「相手はマッドサイエンティストの家系だ。千堂彰の異母弟で、科学者であり研究者なら、有り得る事だ」遼大がそう言って、部下の人に聞く。「無効化出来そうか?」そう聞かれた部下の人が言う。「マスクなどを装着し、一度、爆破しないと玄関からは入れませんね」そう言われて遼大が腕を組んで考える。周囲を探っていた部下の人が駆けて来て、遼大に報告する。「高嶺総帥、玄関以外には入れそうな場所は見当たりませんでした」そう言われて遼大が言う。「じゃあ、やるしかないな」遼大はそう言って私に微笑む。「一旦、退避しよう。こちらにも色々と準備がかかりそうだ」遼大はそう言って堤さんを見る。「堤さんも一度、報告に?」そう聞かれた堤さんが言う。「報告は随時していますので、大丈夫です。こちらで準備に協力出来る事があれば、何なりと」堤さんはそう言って遼大に指示を仰ぐように、下を向く。「急いで準備だ」そう言って遼大は私を連れて、その場から退避する。◇◇◇アイツらは玄関に仕掛けたあのトラップに、今頃、嵌っているか、悪戦苦闘している頃合いだろう。私はそれにほくそ笑みながら、ガタガタと震える車の中で思いを巡らせる。研究施設なんて、ごまんとある。今まで色々な施設に大義名分を与え、隠れ蓑にして来たのだ。千堂家は異母兄の千堂彰がEMSOという組織の中でその地位を上げる事に躍起になっていたが私は違う。私は純粋に人間の体内のメカニズムを知りたいのだ。そして今、目の前にある検体は、異母兄が作り出した最恐の薬
「これはこれは、興味深い結果が出ている」拘束された私のすぐ横で千堂弘がモニターを見ながらそう言っている。「なるほど……あなたの体内で何が起きているのか、もう少しでデータが取れそうです」そう言ってニヤリと笑う千堂弘を睨み付ける。「一体、何を言っているの!」私がそう怒鳴ると千堂弘は私から体を離して、耳を押さえる。「そんなに大きな声を出さないでくださいよ!」そう言いながら手に持っていたメモを書いていたファイルを床に叩き付ける。バン! と硬いプラスチックが叩き付けられる不穏な音が響く。「私はね……研究熱心なんですよ……分からない事があれば追及する……それを元に更に研究を飛躍させる……」そう言いながら千堂弘は異様に血走った目で私に手を伸ばし、私の髪ごと頭頂部を鷲掴みにする。「お前は! 私のモルモットなんだよ! そうじゃなきゃ、今すぐにでもお前の体をメスで開いて生きたまま観察したいくらいなのを、我慢してやっている!」その時、千堂弘の部下が数人、部屋に入って来る。「弘様」そう言われた千堂弘が私の頭から手を離す。髪が引き抜かれる感覚がして痛い。「何だ?」千堂弘がそう聞くと、部下の一人が言う。「追手が」そう言われて千堂弘は笑い、私に振り返る。「お前を追って来た者たちが居る」そう言って千堂弘はほんの一瞬、考え込み、部下に言う。「エスケープ・オーダー」千堂弘がそう言った途端に、部下たちが頷き、さっと動き出す。あっという間に私はその場からストレッチャーに載せられて運び出される。「一体、どこへ行くつもりなの!」私がそう言うと、千堂弘はニコッと笑って、言う。「僕が研究をこの場所でしか出来ないとでも?」大きな車に乗せられる。私は大きな声で叫ぶ。「誰か!! 誰か助けて……」すぐに口が塞がれ、何か薬品を吸引してしまう。「眠って下さい……起きた時にはもっと良い場所に到着しています」千堂弘のその言葉を最後に私は意識を失った。◇◇◇千堂家に到着する。千堂家の前には厚生労働省の堤さんが待っていた。「お待ちしておりました、高嶺総帥」そう言われて遼大が軽く挨拶する。「あぁ、前回は世話になった」遼大の言う前回というのは千堂彰の時の事だろう。「いいえ、こちらこそ。力及ばず」そう言われて私は遼大を見上げる。「どういう事?」遼大が難しい顔
「フフフ……私に跪きなさい……」私は目の前に見せる人間たちにそう命じる。皆、私を崇めて見上げている。なのに。その中の一人が立ち上がった。立ち上がったのは他でもない、佐伯燈だった。「ちょっと! 佐伯燈! 何故、立ち上がるの! 私の元へ来て跪きなさいよ!」私がそう言っても佐伯燈は無表情で私を見つめ返し、そのまま背を向けて歩き出す。「ちょっと待ちなさいよ!」手を伸ばしても私は体が動かせない。「何よ、何で体が動かないの……」そうこうしているうちに、一人、また一人と立ち上がる。佐伯燈に続いて立ち上がったのは高嶺遼大だ。高嶺遼大もまた、佐伯燈と同じように私を無表情で見た後、背を向けて歩き去って行く。次に立ち上がったのは久遠湊だ。「湊、待って! 行かないで!」そう言っても湊は前の二人同様、私を無表情で見た後、背を向けて歩き去って行く。その後も私の足元に跪いていた人間が一人、また一人と立ち上がり、去って行く。怒りで体が震える。怒りのせいか体中が熱い。その熱は脳天まで突き抜けて、私の思考を焼いて行く。「熱い! ……熱い!」そう言いながら私は開けていると思っていた目を開ける。灰色の天井。身体が動かせないのは、私が拘束されているからだ。体中が熱い。焼けて行くような感覚がするのに、見ても私の体には異常は無いように見える。体中が熱くて仕方ないのに、点滴を打たれている腕の一か所だけが、冷たく感じる。「何を入れているの……?」そう聞くと私の様子を眺めている白髪の青年・千堂弘が言う。「生理食塩水ですよ。体には無害です」そう言われて私は首を振る。「無害な訳無いじゃない! 体中が熱いのよ!」私がそう叫ぶと、千堂弘はそれを聞きながらメモを取っている。「ほぅほぅ……興味深いですね……生理食塩水を入れているだけなのに、体中が熱いと感じる……なるほど……」千堂弘はメモを取りながら聞く。「とても楽しそうな幻覚をご覧になっていたようでしたが、今はどうですか?」そう聞かれて私は怒鳴る。「言ってるでしょ! 今はこうして……」そこまで言って、ハッとなる。「幻覚……?」そう呟くように言い、さっきまで見ていたものが幻覚なのだと自覚する。目頭が熱くなり、鼻の奥がツンとする。涙が溢れて来て止まらない。「アハハ……幻覚……そうよね……」私にだって自分が置か